第1回「科学と社会」意見交換・交流会を開催しました(ゲスト:斉藤卓也さん(理化学研究所経営企画部長、前文部科学省人材政策課長))
概要 Summary
知的好奇心がもたらす心豊かな社会をつくる会(代表:大草芳江)では、「科学・技術の地産地消」の実現にむけて、「科学と社会」をテーマに、毎回、各界から多彩なゲストを迎え、宮城の日本酒を交えながら、ざっくばらんに政策立案に向けての議論を行うニュータイプの意見交換・交流会を開催いたします。
「科学と社会」についての捉え方は、立場によって異なります。議題は、ゲストが「科学と社会」をどのように捉えているかからスタートし、その切り口から、参加者同士で活発な議論を行います。議論の様子は、市民参加型の政策立案プロセス検証の一環として公開することにより、広く社会と共有します。
第1回目は、文部科学省から理化学研究所に出向中の斉藤卓也さん(経営企画部長、前・文部科学省人材政策課長)をゲストに迎えて11月29日、綴カフェ(仙台市)を会場に開催しました。当日は、大学や行政、教育、企業、学生、政治家、NPO、町内会の方など、多様な立場から、定員を超えて会場いっぱいとなる約30人の方にご参加いただき、予定時間を超過して活発なご議論をいただきました。
はじめに斉藤さんから、文部科学省等で政策の企画・立案等に携わっている立場から、リアルに感じている問題意識等をご講演いただき、それをもとに参加者同士でざっくばらんに議論しました。議論の様子は、市民参加型の政策立案プロセス検証の一環として無記名で議事録を作成し、以下に概要を公開いたします。
開催概要
【名称】第1回「科学と社会」意見交換・交流会
【主催】心豊かな社会をつくる会(代表 大草よしえ)
【日時】2023年11月29日(水)19:00〜21:00
【場所】綴カフェ(仙台市青葉区北目町4-7 HSGビル1階https://tsuzuri.jp/)
【費用】2,000円(綴カフェのオードブルと宮城の日本酒の実費です)
【ゲスト】斉藤卓也さん(国立研究開発法人理化学研究所 経営企画部長(理事長室、ダイバーシティ推進室兼務))
[略歴]東京大学工学部電気工学科卒業、科学技術庁(現文部科学省)入庁。カリフォルニア大学サンディエゴ校留学、ライフサイエンス課長補佐、在オーストラリア日本大使館一等書記官、文部科学省非常災害対策センター(EOC、福島原発事故対応)、会計課予算企画調整官、山口俊一内閣府特命担当大臣(科学技術、IT、クールジャパン)秘書官、基礎研究推進室長、徳島大学副学長、産業連携・地域支援課長、人材政策課長などを経て現職。
議事録
第1回「科学と社会」意見交換会(日時:11月29日、会場:綴カフェ)では、ゲストの斉藤卓也さん(国立研究開発法人理化学研究所 経営企画部長(理事長室、ダイバーシティ推進室兼務)から、「より良い未来への社会変を駆動する科学技術」と題して、リアルに感じている問題意識等をまずお話いただきました。以下に講演内容の一部を抜粋します。
「より良い未来への社会変革を駆動する科学技術」
斉藤卓也(国立研究開発法人理化学研究所 経営企画部長)
根本的な問題意識
「長期的に日本が国力を維持できるか」「自分の子供達は、自分たちと同じ生活をできるか。日本に生まれてよかったと思えるか」。そのためには持続可能な社会と日本の競争力の維持が必要、そのためにできることは何か。
社会課題と科学技術
新型コロナウイルス感染症、高まる国際緊張、社会的分断、地球温暖化・異常気象など、昨今、地球規模の課題が顕在化している。すべて人類の活動が引き起こした事象であり、人の動変容が解決の鍵。地球温暖化は2030年までのタスクカウントダウンが始まっている。
小さなコミュニティでは、個々の短期的利益を超えた共通利益をイメージしやすいが、コミュニティのサイズがきくなると、守ることが難しくなる(コモンズの悲劇)。一方、DXがもたらす、サイバーフィジカルの融合は時空を越えてつなぐがあるはず。実効的に地球をさくし、人が他者や地球を感じるを高めることができるのでは。それがSociety 5.0 の指す社会。
Society5.0とは、「デジタル革新でフィジカルとサイバーの世界が高度に融合し、安心で快適な暮らしと、新たな成長機会を皆で創り出していく、持続可能で、誰もとり残されない人間中心の社会(経団連、東京大学、GPIF共同研究報告書2020.3.26)」。科学技術によって、停滞から抜け出すチャンスとすべき。
科学技術や地方大学を取り巻く状況
日本における少子高齢化の進行、国家財政の危機的状況、国際競争力の低下(IMDランキング、1990年代前半1位→20位以下)、科学技術への投資の国際的な増加に伴う日本の相対的な地位低下、 IoT、AIなどによる社会の大きな変化などを背景に、社会から大学へ、社会人教育、地方創生への期待が高まっている。日本の科学技術・イノベーション力凋落への危機感から、大規模資金投入の機運が高まり、さらに地政学、安全保障環境の大きな変化、AI革新も相まって、高等教育にこれまで期待されていなかった機能として、「先のえない社会を創る、変える」、産学連携、社会貢献への期待も高まっている。
一方、高等教育への公財政出(教育機関への出・対GDP)は、日本はOECD諸国中最低水準で約半分の水準。税収は増えない一方で社会保障関係費が増大する中、税金投入は難しい状況。また、企業からの大学における研究費の負担率も日本は2.5%と低い状況。企業が大学という機能を如何に使うかが大事。
論文数、注度の高い論文数における世界ラインキングで日本は低下傾向。一方で可能性のある面として、国際学習到達度調査(PISA)で数学リテラシーと科学リテラシーは日本が上位、国際成人力調査(PIAAC)で読解力と数的思考力は日本が1位(ただし中上位の成人の割合は10位)。日本人のノーベル賞受賞者の出身大学は、旧帝大が多いが、地方大学もある。
地方大学に地方創生への貢献を求める話も数年前から出ている。徳島大学に赴任した際に考えたことは、地学がき残るためには、特、強みを持つ必要がある。強みのある分野をつくるためには、関係する人がいるだけではだめで、さらに強みを持つ教員を採する必要がある。すると強みのある教員に学も社会人も集まってくる。
大学の強みは、研究者個人の持つ知だけではなく、人文社会を含めた多分野の知の集合、アカデミアのネットワーク、公的中な立場、「地域のため」に様々なプレイヤーがまとまれる実践のフィールドといった価値がある。大学の価値を社会としてうまく活用できるとよい。
地域発展のエコシステムは、人が変わっても変わらないビジョンをつくる必要がある。時に自ら気づいていない強みを最大限引き出し、目指すべき将来像を描いたビジョンをつくる仕組みが必要だ。徳島大学では、未来志向の対話から社会課題を解決するイノベーションプラットフォーム「フューチャーセンター」を国内の国立大学で初めて設立した。所属や立場が異なる多様な関係者が対話・協働し、地域と一体となった大学、大学と一体となった地域の未来を共創する場である。
混沌として変化の激しい社会では、現状分析し、熱意を持って、あるべき姿とビジョンを考えた上で、今、何をすべきかを考えるアプローチが大事。シングルカルチャーよりクロスカルチャーのグループの方が質の高い議論が行われているというデータもある。SDGs目標17『パートナーシップで標を達成しよう』マルチステークホルダー・パートナーシップ17.17『さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官、市社会のパートナーシップを奨励・推進する』で掲げられているように、科学技術を如何に活用するか、多様な立場の人が集まり議論することが重要。
このほか、斉藤さんからは理化学研究所と今後の方向性についてもお話いただきました。以上の斉藤さんからの話題提供をもとに、参加者からは予定時間を大幅に超過して活発なご議論をいただきました。以下に議論のようすを一部抜粋して掲載いたします。
議論のようす(一部抜粋)
●国として大学に一番何を求めているのか、ビジョンを聞きたい。研究と教育と産学連携は違う。論文の質と量を高めたいなら、かつての理研のような「科学者の楽園」を多くつくる方がよいという意見もある。(大学生)
●大学に求められている役割は、法律上、少し前までは「教育」と「研究」、最近は「社会貢献」も加わった。一方で教育と研究と社会貢献は違うのに、大学教授がマネジメントするのは、社会が複雑になり社会的課題が大きくなる中で限界。多様な組織こそ重要。
●複雑さを複雑なまま捉えることは、人間が認識できる範疇を超えており、意思決定もアップデートが必要。意思決定の仕方も今後はDX化が求められるのでは。例えば、予算配分に対して自分たちの意志をどう反映していくか。民主主義の根幹となる話だが、間接投票では限界があると感じる。(大学生)
●多様な立場の知が集まり、最適解を見つける仕組みが必要。大学の仕組みはトップダウンになっているところがあるが、せっかく多様な専門家がいるので、地域における大学のあり方を、企業や市民も入って考えてもよいのでは。
●トップ研究者が海外に出ていく事例が今後ますます増えるのではと危惧している。国は、日本に来てくれることを前提に話をしていないか。金さえ上げれば来てくれるかもしれないが、トップ研究者がワクワクして日本に来てくれる姿を、子どもたちに見せられていないのが現状。(大学関係者)
●優秀な学生は外資や海外へ就職しており、公務員にも優秀な学生が来ない危機的な状況。科学技術への投資が国際的に増加する中で、日本は横ばい。ある程度メリハリを付けて部分的にでも優秀な人達をどう残すかが、現実的な解。特に大学はそうするしかない。10兆円ファンドは、まさに日本のトップレベルの研究環境をつくる、メリハリの事業。
●なぜDX化が進まないのか。日本の研究開発能力が落ちているのか。文科省はそれら要因をどのように考えているのか。(大学関係者)
●日本の論文の総数は変わっていない。順位が落ちているのは、他国は科学技術への投資が増大し、論文数が世界的に増えているためで、仕方のない部分もある。他にも、企業発の論文が減っていたり、大学が忙しすぎて研究時間が減っているといった要因もあるが、複合的な要因かと思う。
●文科省として、大学院重点化など、選択と集中に対する評価はあるのか。(大学関係者)
●あるが、より社会課題が複雑化している中で、専門性がなければ対応できない問題が増え、日本以外ではPh.D.を持つ人が国際会議に出席する等、高学歴化が進んでいる。ドクターを増やし、複雑な課題に対応できる人材を育てる方向性自体は間違っていないが、育てた人材が企業に受け入れられるのか、社会全体で取り組んでいたかというと疑問。大学行政として増やすだけでなく、企業や自治体を含めて議論する必要がある。
●共通一次試験で日本中の学生を輪切りにするようになってから、真面目で素直で授業に出る人が多くなった。ところが、成績がよいわけではない。日本人を偏差値で切って均一な尺度になっているのでは。以前務めていた外資系企業では、エントリーのセレクションにダイバーシティがあった。日本のエントリーのセレクションにポイントがあるのでは。(研究機関関係者)
●社会が複雑化しているので、総合型選抜(AO入試)等、それなりの変化はある。一方で、共通テストを受ける仕組み自体を変えないでくれと言っているのは、むしろ保護者や市民の方。東大の先生の話を聞くと、「東大としては変えたいが、共通テストとは別のテストを導入すると、親や世論が『変えないで』の声」。大学や文科省で変えられることはそれほど多くなく、日本の社会が求めていることがある。世論が変わる必要がある。
●論文の質を高めるために、国として何を一番考えているか。論文を書くモチベーションは、立場によって異なる。よりよい研究成果を出すために、という先生や学生もいれば、奨学金を返還するため、卒業するため、何でもいいから論文を書くという学生も一部いる。文科省として博士学生を増やすことに注力しているが、私個人としては、博士学生を増やすこと以上に、助教やポスドクが大きな課題に腰を据えて挑める環境が必要と考える。(博士学生)
●そもそもよい論文とは何かは難しい。模範解答は引用影響率なので、いちばん簡単な解は、国際コミュニティに入って引用件数を上げること。しかし論文生産のための論文では、視野が狭まるので、それだけではだめ。若手のポストを増やすべきというのは、ご指摘の通り。安定したキャリアは古き良き時代の話で、若い人は競争的にシフトし、ある程度上になれば終身ポストというのは国際的にはスタンダード。しかし日本という終身雇用の慣行が続き比較的安定しているポストの中、大学だけが異常に流動的な状況にある。日本という社会に適したキャリアパスを考える必要があり、そのための試行錯誤をしている。ただ、若手研究者支援は相対的には増えており、「『若手』という線を超えると、研究費がなくて困る」という声があるくらい。早めによいポストを探していただきたい。一方、今のままではよくないという声はよく聞くので、文科省としても改善しようとしている。
●今の問題は、説明責任を国がどう果たすか。数字として説明しやすいもので、論文トップ順位やインパクトファクターの問題に帰着しているので、インセンティブ設計に、ミスがあると言うか、説明責任を果たすために、制度設計が逆回転している面があるのでは。科学をどう指標化するか。海外では研究の貢献を評価する別の指標もあるので、そもそも指標を変える議論があってもよいのでは。(大学生)
●研究論文やインパクトファクターだけではない研究の評価を、研究コミュニティ自身が考えるべきでは。一方で採用時、教育歴や人柄も多角的に見ながら人を選んだりしている。単なるインパクトファクターだけでない指標を自らつくる必要がある。インパクトファクターのように、日本にとって不利なものを使って評価せざるを得ない現状はよくない。
●科研費などの競争的研究資金の取得が大学での立場を上げていることは問題。お金の必要な研究と、お金のいらない研究があると思うが、大学が獲得を強く要求しており、結果として多くの不要な研究費が無駄に執行されていると現場レベルで感じる。日本の科学研究費予算が減っていく中、無駄を減らすことは必要。評価システムが研究費の金額とならずに、真摯に研究内容となることを願うばかり。(大学研究者)
宮城の日本酒
ざっくばらんな意見交換を促進することを目的として、季節の限定酒をご用意しました。なお、以下は用意した日本酒の銘柄、造り、使用米、精米歩合、製造年度を示しています。
1.墨廼江 大吟醸 鑑評会出品酒 山田錦40% 4BY
2.黄金澤 純米大吟醸 斧琴菊 彗 星50% 4BY
3.宮寒梅 純米大吟醸 無濾過中取り生 美山錦45% 5BY
4.伯楽星 純米吟醸 雄町 雄 町50% 4BY
5.萩の鶴 純米吟醸 雄町 雄 町50% 3BY
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