議事録
ゲストの深谷晃祐さん(多賀城市長)による講演要旨
政治家を志した理由
東京の専門学校で作曲を勉強し、大工もしつつ、DJをやりながら、作曲してCDを販売し音楽で仕事をしようと思っていた。長男の出生を契機に東京から仙台へ戻り、父親の仕事を志したり飲食業で働いたりと、様々な仕事を経験した。26歳で政治家を志した理由は、宮城県議会議員だった叔父の選挙を手伝ったことがきっかけ。自分も想いを有権者に発信したらどんな反応があるか、知りたくなった。2007年、多賀城市議会議員一般選挙に出馬し、1期目で多賀城市の最多得票数を塗り替え、2期目も票を伸ばした。
議員と首長の違い
政治家はよく「私はこれをやりました」と言うが、私はできたことを言ったことがない。逆に、できなかったことを有権者に如何に理解してもらうかが大事。政治家を使ってしか問題を解決できない時点で、無理難題のことの方が多い。そのことをどうすればしっかり理解してもらえるかを重視して政治活動をしてきた。ところが首長の立場になると、それが全く違う。できるか・できないかを言ったら、その時点で会話が終わってしまう。できないではなく、どうしたらできるかを議員の時以上に考える。一方で首長は自分の描いたビジョンを発信し、それを前に進めるために議員を説得できる。市長の執行権は大きい。だからこそ慎重にならざるを得ないが、色々な方々の声に耳を傾けつつ、大胆に行動していきたい。
まちづくりはひとづくり
宮城県の市町村で教育に一番お金をかけているのが多賀城市。こども家庭庁よりも先にチルドレン・ファーストを掲げた。これを市政だよりで発信した瞬間、反対の声も含め様々な反応があったが、「米百俵」の精神で、子どもたちへの投資こそが多賀城の未来を明るくするとの信念を貫き、様々な取り組みを行ってきた。「議員は金持ち」と思われがちだが、手取りで19万円だったので相対的貧困家庭にあたり、子どもを塾や習い事に通わせることができず、親の経済状況によって子どもの学ぶ機会が奪われると感じた。たとえ親にお金や興味がなくても、子どもに関心さえあれば、学べる機会だけは与えたい。文化・芸術に触れられるまちにしたい。そこで、ピアノをいつでも弾ける環境をつくったり、夏には図書館のみならず中央公民館に学習スペースを開放したりして、子どもたちが夢にチャレンジできるまちづくりを常に考えてきた。
科学と社会
なぜ科学をわたしたちは学ばないといけないのか。自分たちが気にしていなくても、その恩恵に預かっている。スイスの欧州原子核研究機構(CERN)を視察した時、WWW(WorldWideWeb)が、CERNの膨大な実験データを世界中の研究者同士でいち早く共有するために誕生したことを知り、科学の恩恵をもとに自分たちも日々の生活を送っていることを改めて実感した。子どもたちの感受性豊かな年代に、偽物を100回より本物に1回触れさせたい。それが子どもたちの興味関心や内発的動機付けにつながるとよい。
お金を配らない政治家であり続けたい
どうしても言いたかったことが、もうひとつある。「お金を配る政治家がよい政治家だ」と信じている人がいる。しかしながら、借金の中身を知らずにお金を配る政治家を選ぶことが、本当にまちの未来を明るくするのだろうか。それよりも、魚の釣り方を教えて自立できる市民を如何に増やせるかが、まちの未来を明るくするために大切なこと。未来のために投資をし続け、それが10年後20年後にどうなるかはわからないが、子どもたちが多賀城市で育ってよかったと思える市にしたい。これからも、まちづくりはひとづくり。子どもでも大人でも多賀城なら学べる・頑張れる・チャレンジできるまちづくりを目指して頑張りたい。科学と違って行政は一番でなくてもよい。一番手と同じ轍は踏まず、むしろ二番煎じでよい恩恵を受けながら経費をかけずに頑張っていきたい。
多賀城創建1300年記念の年を迎えて
「宮城のはじまり、東北のはじまり」といえる多賀城が、今年(2024年)、創建1300年の素晴らしい年を迎える。多賀城創建1300年記念の成功とは何かを考えた時、それを皆でお祝いできることに感謝しよう、ということに行き着いた。国府が多賀城に設置されたことを記す石碑が残っているおかげで創建1300年と気づけてお祝いができる。1300年の維持に関わった皆さん、住み続けている皆さんがいるおかげで、お祝いができる幸せ。それを皆さんに感じてもらえたら嬉しい。国宝認定を受けたことで、多賀城碑に足を運んでもらえることが有り難い。来るたびに変わる多賀城を楽しんでもらえたら。私には関心を寄せなくてもよいので、多賀城市に関心を寄せていただいたら嬉しい。
議論の様子(一部抜粋)
Q. 市民として市長はどんな人かなという好奇心で参加したが、市長とお話を直接できて非常によかった。私も「お金を配らない政治」を望んでいる。無償化はできればよいが、そのためにお金をどう工面するのか。借金でお金を配るのではなく、税収を増やすために人口が増える必要があり、そのためには住みよいまちであるべきであり、そのための産業誘致や交流人口の増加など、お金を稼ぐ仕組みをつくった結果として色々やっていくことが大切なのに、とずっと思っていた。ものごとのつながりをロジカルに考えずに目先のメリット・デメリットで短絡的に考える人が多いが、何をするにもお金が必要で、そのためには何らかの施策が必要となる。そのようなことを科学的に考えられる若者を、長期スパンではあるが、育てていく必要がある(企業出身の大学関係者)。
A. 単に人口が増えれば税収が増えるかというと、そうではない。如何に自立できる市民を増やすか、選んでもらえるかが大事。できることの説明よりできないことの説明を徹底し、一緒に教育しながらまちが育っていくようにしていきたい。
Q. 座右の銘と尊敬できる人は?(環境NPO関係者)
A. 「温故知新」が好き。過去から学びつつ過去がすべて正しいわけではないので、新しいことを取り入れながら今に活かす、不易流行。すごい人はいるが、この人を目指すという人は今までいない。ぜひ出会いたいが、同じことを真似したら失敗すると思う。
Q. 市長の話を直に聞ける機会は滅多にないので、貴重な機会をいただいた。市民と共有し実装することの重要性がすごく伝わってきた。一方で科学を社会に伝えることは難しい。 様々な場所に赴いてアウトリーチイベントを開いても、市民に科学を語ると、「なにそれ?」「知らぬが仏でしょう」という反応が多く、うまく伝えられない。多賀城市としてイベントと抱き合わせて科学とはこういうことだと伝えたことはあるか?(大学関係者)
A. 「サイエンスデイ」のような機会がすべてかなと思っている。人は知らないものに対し恐怖心を覚えることがある。科学は知らないと怖いし、科学と聞くだけで拒否反応や難しいなと思う側面もある。僕は、わからないことはわかる人の話を聞くようにしている。その人を信じられるか・信じられないかは、僕の勘。勘で生きているが、今のところ全部当たっている。僕にはないものを持っている人を皆リスペクトしており、お互いにリスペクトし合うことでよい化学反応が起こると信じている。 大草さんの話ですごく感じたことは、内発的動機付けを如何に持たせられるかは、科学に限らず芸術でも音楽でも、どんな分野においても必要なこと。サイエンスデイは科学を知るきっかけであり、それを契機に他のことにも関心を寄せることにつながる。行政はお金儲けをする団体ではないので、市民がどうすれば幸せになれるかが一番。そのために必要なことは、きっかけを提供すること。一方で残念なことは、自分は子どもをサイエンスデイに連れて行ったことがなかった。親にも興味・関心を持たせられないと、たとえ機会を平等に与えたとしても行動変容にはつながらない。行政としてまちづくりをどのようにしていくか、その点も考えながら、科学を伝えていきたい。
Q. 市政に関わることを直に質問できる機会が嬉しい。科学教育の推進は大事という共通概念はあると思うが、行政を司る立場で、科学を教育しようというモチベーションは何か?技術的な期待?それとも科学を知らないことで恐れる人が多いため?科学に何を期待しているのか?(大学院生)
A. 教育長とよく話していることが、理科の実験は楽しい。楽しいという動機付けがよい。何でもきっかけづくりが大事で、学ぶ意欲に火をつけるきっかけづくりが科学なのだと思う。日本は資源がない国だから、研究が国や宮城県の資産になりうるものだと思う。多賀城の教育長はミミズの研究者で、科学の楽しさを知っており、県の加配より予算を倍増して理科の支援員を増やしている。そんな教育長を信じて進めている。
Q. 動物が集まると集団が形成され、大体は平等にならない。餌が限られるといじめるし、高次な動物になると、餌に関係なくいじめることもあるので難しい。集団では解決しない時にリーダーが大切になる。集団をまとめる役割がうまく指揮を取ることで、足を引っ張る存在はなくならないが全体的にはよくなる。リーダーにも教育が大事と考えていたが、市長の経歴を拝見すると、政治家になるための教育は見られず、素質から来るように思える。リーダー教育について考えがあれば伺いたい(大学院生)。
A. 勉強ができる脳みそと、責任を取る覚悟ができる脳みそは違う。それが履き違えられている場面が多い。違うからこそ、お互いリスペクトし合えるとよいと思う。日本の国会議員には、世に言う良い家庭で育ち良い大学に行った人が多い。自分は勉強ができなかったので、頭を使わないと生きていけないし、他に勉強ができる人がいないと困る。お互い尊重し合うことがなければ、よいリーダーは生まれないと思う。
リーダーはその場の空気をつくる。市役所の中で言えば、組織の長なので、僕の雰囲気で「市長の機嫌が悪いな」とか職員さんに気を遣わせることはあってはならない。仮に機嫌が悪かったとしても、市役所では必ず鼻歌を歌うようにしている。すると「今日は機嫌がよいのですか?」と聞かれるし、今まで話しかけてこなかった人も話しかけてきたり、鼻歌だけで、職場が明るくなる。化学反応はどこでも起こせるし、組織の生産性も上がると思う。
Q. 実験中に歌う人は多い。研究室の雰囲気がピリピリすると生産性は落ちる。自分が直接怒られていないし関係ないけど、まわりに影響がある。それを広げていくと多賀城がよくなると(大学院生)。
A. 我々が幸せじゃないと日本の未来も幸せじゃないことが逆に示せる。こういう議論ができるまちになればいいなと思った。自分のやりたいことができる平和を享受し、その幸せを噛みしめつつ、平和は我々自身にかかっている。地方自治を預かる立場にありながら、日本という存在があるからこそできる行政分野。今後も色々な分野にアンテナを張りながら、多賀城のまち、そして日本がよくなるよう頑張っていきたい。
宮城の日本酒
ざっくばらんな意見交換を促進することを目的として、季節の限定酒をご用意しました。なお、以下は用意した日本酒の銘柄、造り、使用米、精米歩合、製造年度を示しています。
1.墨廼江 純米大吟醸 谷風 山田錦40% 4BY
石巻市 年二回出荷の限定純米大吟醸
江戸時代の宮城の名横綱 谷風を命名した純米大吟醸
2.乾坤一 純米大吟醸 雄町 雄町40% 4BY
村田町 酒米雄町で造った特約店純米大吟醸
4BYは宮城酵母で造った最後の純米大吟醸
3.宮寒梅 純米大吟醸 斗瓶おりがらみ 山田錦35%40% 5BY
大崎市 宮城県産山田錦で造った宮城県特約店限定純米大吟醸
鑑評会出品酒用の斗瓶のオリからませました
4.萩の鶴 純米大吟醸 亀岡 おりがらみ生 美山錦35% 5BY
栗原市 当店オリジナル酒の亀岡 その超限定35%精米で造る
店頭販売はない 特別な純米大吟醸
5.萩の鶴 純米吟醸別仕込み生 さくらネコ 美山錦50% 5BY
栗原市 萩の鶴亀岡とは違う酵母の純米吟醸で
故に別仕込みの名が付いた 大草思い出の酒
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