2024.05.24 イベント実施報告

第5回「科学と社会」意見交換・交流会をゲストに宇宙物理学者の二間瀬敏史さんを迎えて開催しました

概要 Summary

 心豊かな社会をつくる会(代表:大草芳江)では、知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて、「科学と社会」をテーマに、毎回、各界から多彩なゲストを迎え、宮城の日本酒を交えながら、ざっくばらんに政策立案に資する議論を行うニュータイプの意見交換会を定期開催しています。
 「科学と社会」についての捉え方は、立場によって異なります。議題は、ゲストが「科学と社会」をどのように捉えているかからスタートし、その切り口から、参加者同士で議論を行います。議論の様子は、市民参加型の政策立案プロセス検証の一環として公開することにより、広く社会と共有します。
 第5回目のゲストは、宇宙物理学者の二間瀬敏史さんです。専門書のみならず一般向けの著書も多数執筆されている二間瀬さんから、はじめにご専門の一般相対性理論や宇宙論についてわかりやすく解説いただいた後、世界をフィールドに研究してきた立場から今、社会に対してリアルに感じていることを中心にお話いただきました。
 今回も大学や研究機関の研究者や現役学生、教育や企業、NPOなど多様な立場の方からご参加いただき、日本の研究や教育について、現状の問題点やあるべき姿など活発な議論を行うことができました。ゲストスピーカーをお引き受けいただいた二間瀬さん、ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。議論の様子は、市民参加型の政策立案プロセス検証の一環として無記名で議事録を作成し、以下に概要を公開いたします。

開催概要

【名称】第5回「科学と社会」意見交換・交流会
【主催】心豊かな社会をつくる会(代表 大草よしえ)
【日時】2024年5月24日(金)19:00〜21:00
【場所】綴カフェ(仙台市青葉区北目町4-7 HSGビル1階https://tsuzuri.jp/
【費用】2,000円(綴カフェのオードブルと宮城の日本酒の実費です)
【ゲスト】二間瀬敏史さん(宇宙地理学者、東北大学名誉教授)

[略歴](ふたませ・としふみ)1953年、札幌市生まれ。京都大学理学部卒業、ウェールズ大学カーディフ校大学院博士課程修了(Ph.D.)、マックス・プランク天体物理学研究所、ワシントン大学、弘前大学、東北大学、京都産業大学を経て、現在、東北大学名誉教授。専門は一般相対性理論、宇宙論。最近の興味は宇宙論における暗黒物質、暗黒エネルギーの重力レンズを用いた観測的研究、それに関連する理論的研究。専門書のみならず、『宇宙137億年の謎 (図解雑学)』、『タイムマシンって実現できる?: 理系脳をきたえる! はじめての相対性理論と量子論』、『時間旅行は可能か?——相対性理論の入り口』、『ブラックホールに近づいたらどうなるか?』、『宇宙人に、いつ、どこで会えるか?』など、一般向け著書も多数。

議事録

ゲストの二間瀬敏史さん(宇宙物理学者、東北大学名誉教授)による講演要旨

 科学と社会というテーマは、人によって様々な切り口があるだろう。私の場合は、科学=天文学ということになる。天文学から見た科学と社会の関係について、また国内外の大学で学生として、また教官として過ごした経験から感じる日本の大学、学生、教育についての話をしたい。ただし、どの話も結論があるわけではなく、なんとなくこう思うなという程度の、またいずれも私の狭い経験に基づくもので、決して一般的ではないことをお断りしておく。

1.身のまわりの天文学

Figure 1 二間瀬さんの専門分野(一般相対性理論や宇宙論)について解説

 天文学は一番古い科学だが、実社会から最も遠くにある科学、浮世離れした科学という受け取り方が一般的だと思う。実際には社会と密接に結びついているが、それはよく認識されていないようだ。そこでまず天文学に親しみを感じていただけるように、身の回りにあるものが天文学と直接かかわっているという事例を挙げたい。

2.技術の発展と天文学

 社会の発展の一つの要素は、産業技術の発展だが、実は天文学の発展も産業技術の発展が大きな要素になっている。技術の発展は天文学の発展にも、逆に天文学の知見から技術の発展や温暖化のように社会の問題が見えてくることもある。天文学を勉強して何の役に立つのという疑問はもっともで、その答えとして「天文学は面白いから」でも十分だが、技術と天文学の深い関係から天文学を勉強すると「結構いい就職ができる」という答えもある。ブラックホールシャドウの観測と原子時計、スパコンの関係など、天文学と社会のつながりをいくつかの例でみてみたい。

3.科学と教育

Figure 2 二間瀬さんの講演はアインシュタインの言葉「自然は壁から天井まで摩訶不思議な言葉で書かれた本で埋め尽くされた神の図書館。研究とはどの本に何が書いてあるかを読もうとすること」で締めくくられた

 私は、大学の修士課程を修了後、イギリスのカーディフ大学で博士号を取得後、数年アメリカの私立大学、ドイツの研究所、イギリスの大学で研究生活を送り、その後35歳で弘前大学(7年)、東北大学(21年)、京都産業大学(7年)で研究、教育に携わってきた。定年後は台湾の研究所にどきどき一か月ほど滞在して台湾各地の大学で集中講義をしている。また中国、インドネシア、韓国、タイでも集中講義をした経験がある。地方大学、旧帝大、私立大学、海外の大学それぞれに特徴があり、そこでの学生達とわいわいがやがやとやってきたという感じだが、それなりに日本の学生、大学、そして教育について考えることがある。科学と社会とはつまるところ、科学と人ということだろう。私の場合は人=学生だが、私から見た科学と人、今後の日本の大学についての思いを話したい。

議論のようす(一部抜粋)

●日本の重力波望遠鏡「KAGRA」の精度が出ていない話について、考えられる要因は何か。(大学研究者)

●(精度を出すにはノイズ対策が重要で)防振対策が行われてはいるが、干渉計を構成するミラー自体が軽いことや地震の影響、マンパワー不足などが考えられる。最近の学生は山奥に行きたがらない(ノイズ対策のためKAGRAは岐阜県飛騨市神岡町の神岡鉱山の地下にある)。

●望遠鏡の協同は世界的に重要か。その中で日本の現在の立ち位置は。(大学研究者)

●世界的な観測ネットワークができつつあるが、日本の感度では観測に参加できない。昔の日本では考えられなかった。

●例えば、日本より中国の方が安く早くつくれることもあるのか。(研究機関研究者)

●すばる望遠鏡の鏡を磨くことも日本でできなくなっている。お金の問題かもしれないが、人に対する投資をケチることはよくない。昔はすばる望遠鏡に学生を2人連れて行けたが、今は1人しか連れていけなくなった。ケチってよいところとよくないところがある。

●学生にとっても本物に触れることでモチベーションが向上し、研究も進むと思われるが、成果の割合としては体感でどれくらいか。(NPO関係者)

●100人いて1人いればよい方。たとえよい研究のアイデアがあっても、調べると過去に誰かがやっている場合が多いのが研究。1000のうち1なら御の字。モチベーションが向上しても研究にはつながらないかもしれないが、効率など考えずに、一人でも生まれたら、それでよし、と思わなければいけない。

●最近はますます失敗を許さない雰囲気が強まっている。(NPO関係者)

●色々開発したり研究したりしても失敗することもあるさ、と思っていなければいけない。

●アインシュタイン研究所(マックス・プランク重力物理学研究所)の図書館の話も最後にあったが、これまで訪れた図書館の中で一番のお勧めは。(元高校教員)

●図書館はオンライン化でなくなりつつあるが、台湾の清華大学の図書館はよかった。日本よりも台湾やインドネシアで集中講義を行った方が、やりがいがある。インドネシアで集中講義を行うと、色々な島から学生が集まって来て熱心に講義を聞く。レベルは日本人の学生の方が上だが、今の日本の学生からは熱意を感じられない。大学教員からも、専門の内容になると学生が聴講に来ないと聞く。授業なんて何の役に立つかわからないものだが、違うところで役に立つところがある。僕らが学生の頃は「何でも聞いてやろう」と思っていたが、今の学生は「関係ないから聞かない」傾向がある。一方でインドネシアでは、用意していた講義室では足りないくらい、熱意は日本とは全然違う。まるで、日本の昭和の学生に授業をしているような感じ。10年前とはかなり変わった。

●学生がモチベーションを維持したり高めたりしたい時、研究とは関係ないけれども本物を見に行ったり聞きに行く経験は、学生にとって大切か。(博士課程の大学院生)

●僕の経験では、先生と生徒の関係というよりも、最終的には人と人との関係になるので、なんでもそうだと思うが、合う・合わないはある。学生が話したい時には話すとか、こっちから話しかけるとか、日々のコミュニケーションが大切。

●観測データとは関係ないことでも、人と話すことは大切か。(博士課程の大学院生)

●間接的だが、むしろ直接的な効果があると思う。雑談しながら色々な話をしている時に、革新的なことに触れることが多い。研究とは座ってするものではなく、一緒に昼飯を食べたりしながら、フランクにお互いに何を考えているのか、どのようなことが問題なのか、雑談する中で見つかるもの。研究テーマが見つかった段階で、すでに問題の半分は解決している。難しい問題がいくつもあって、それは誰でも思いつくものだが解けない。3ヶ月程度で目処がつくような面白いテーマを見つけることが研究者の才能。それがどこから来るかといえば、勉強もあるが、雑談的な話をするとか、実はそういったものが大きくて、その積み重ね。そうやって、100やって1つ当たればいい。
 優秀な学生はたくさんいたが、優秀な学生がよい研究者になるとは限らない。ある程度の能力は必要だが、悲観的な学生はよくない。ある程度楽観的な学生の方が、最終的にはよい研究をしたりよいポストに付いたりする。実際に世界で活躍しているK君は、頭のよさで言えば、同期にもう一人いた学生の方が、ログスケールで頭はよかった。頭のよい学生は、難しい問題に目が行く。彼らは性格も能力も対照的で、頭のよさで言えば、K君は足元にも及ばなかったが、難しくてもやっていけばなんとかなるという楽観的なところやハングリー精神があった。

●アインシュタインは尊敬する存在か。昨年アインシュタイン来日100周年記念を迎えた。アインシュタインが日本と日本人を大好きになったことが心に残る。(クリエイティブ関係者)

●アインシュタインの伝記を書いたことがあるが、相当めちゃくちゃな人で、聖人君主ではないことがわかる。相対論などが有名だが、彼は他にも論文を300〜400編書いていて、そのうちの何個かが当たった。アインシュタインだから一生懸命考えて相対論を一つ当てたのではなく、色々やっていて、その結果、相対論とか光電効果とかがある。だから、学生にも「まずは論文を書け、数を書け。書かないと書けなくなる、論文は。しょうもないことでも、書け」と言う。そうやって、よい研究成果をあげてよいポストに付いたのが、K君。頭のよいもう一人の方は、なんやかんや言ってやらない。

●日本が以前より貧しい国となり、より短絡的に実利を得ようとする傾向が強まった結果、効率性と引き換えに、知的好奇心がますます失われている現状の深刻さを改めて認識した。知的好奇心を原動力に研究する象徴的存在であるはずの天文学分野でさえと、ショックを受けた。そんな中で、わたしたちにできることは何か。(主催者)

●「研究とはなにか」を伝え続けるしかない。


宮城の日本酒

 ざっくばらんな意見交換を促進することを目的として、季節の限定酒をご用意しました。なお、以下は用意した日本酒の銘柄、造り、使用米、精米歩合、製造年度を示しています。

1.鳳陽 純米大吟醸 蔵の華          蔵の華 40% 5BY
  富谷市 宮城県最古の酒蔵 内ケ崎酒造店が 宮城の酒米、蔵の華で造る
  過去には全国新酒鑑評会金賞受賞の純米大吟醸

2.蔵王 純米大吟醸 昇り龍雄町 COUNTER  雄 町 50% 5BY
  白石市  蔵150周年記念で 雄町で造られた限定純米大吟醸
  ワイングラスでおいしい日本酒2024 最高金賞受賞酒

3.一ノ蔵 純米吟醸 プリンセス・ミチコ   ササニシキ 50% 5BY
  大崎市 美智子上皇后陛下が皇太子妃時代に英国から献上された薔薇から分離した
  花酵母を使用した限定純米吟醸酒
  ワイングラスでおいしい日本酒2024 最高金賞受賞酒

4.山和 純米吟醸 Pulito            山田錦 50% 5BY
  加美町 純米大吟醸と同じく山田錦で 純米大吟醸と同じ小仕込みで
  酵母は爽やかな香りの純米酵母で造った 繊細な純米吟醸
  Pulitoはイタリア語で イタリアのソムリエさんが名づけました

5.黄金澤 純米吟醸 HITOMEBORE Brut   ひとめぼれ 50% 5BY
  美里町 ネーミング通り ひとめぼれで造ったHITOMEBOREで 
  夏に出すことを 意識したBrutタイプ