令和5年第3回定例会 9月21日
本会議(一般質問)
心豊かな社会をつくる会 大草よしえ
次世代放射光施設の利活用
「心豊かな社会をつくる会」の大草芳江です。私は「科学・技術の地産地消」と銘打ち、ここ仙台・宮城の地において、この地に根ざした資源で人を育て、研究をし、産業を育む、この循環をつくることこそが、ひいては日本全体の多様性を担保し、日本の国力につながる何よりの源泉になる、という信念のもと、18年前、ここ仙台の地で起業し、これまで民間の立場から、大学や研究機関、企業など約300団体と連携のもと、地域の知的資源が様々な形で地域に還元される循環づくりを目指して活動して参りました。そのさらなる実現のために、このたび立ち上げました会派「心豊かな社会をつくる会」でも、「科学・技術の地産地消」推進に向けて活動を行って参りますので、皆様、これから何卒よろしくお願いいたします。
議長のお許しをいただきましたので、一般質問を行います。今回は仙台市の知的資源として、次世代放射光施設の利活用について、お尋ねいたします。皆様ご承知の通り、現在、東北大学青葉山新キャンパス内において東京ドームほどの大きさの次世代放射光施設、通称「ナノテラス」が、来年度からの運用開始にむけて建設中です。ナノテラスは、これまで日本が世界に後れをとっていた軟X線領域において世界最高水準の分析能を有し、ナノの「形」だけでなく「機能」、つまり物質の電子状態やその変化を、高精度で追うことができる世界最高レベルの高輝度放射光施設として国内外から大きな期待を集めているところです。その利用領域は、理工学系やものづくりの分野のみならず、ナノテラスの特徴である高輝度の軟X線は生物試料測定にも適していることから、東北地方が強みを有する食や農の分野での放射光の利用拡大も期待されます。ナノテラスが、イノベーションの創出に向けた人材、知、資金の好循環を生み出す場の中核として、ここ仙台市に立地されることは、仙台市にとっても、世界最高レベルの科学技術を活かしたまちづくりを進め、国際的プレゼンスを高める、またとないチャンスと考えております。
ナノテラスは、官民地域パートナーシップという新しい官民共同の仕組みによって整備・運用が行われており、仙台市も地域パートナー5者の1員として、これまで、ふるさと融資による総額40億円の貸し付けや、企業版ふるさと納税による寄付も含めた、13億円超の施設整備費補助などの財政支援を行っています。特に仙台市として年2,000時間の施設利用権を10年分、合計5億4千万円分を利用料金のインセンティブがある早期に取得し、地場企業へ配分するための準備を進めている点や、地場企業による放射光施設活用事例を創出するためのトライアルユース事業を2019年度から開始している点などは、ほかの地域パートナーなどからの評価も高いと聞いております。
私自身も、主催する一般向けの科学イベントにおいて、東北大学と連携し2016年度から次世代放射光施設のアウトリーチ活動を小学生から大人むけに毎年実施したり、2019年度に東北経済産業局の委託事業で非専門家(行政、企業)向けの解説パンフレットを作成したり、このほかにも関係者からの依頼で様々な取材活動を行うなど、これまで次世代放射光施設の普及啓蒙活動に深く関わらせていただいた関係で、議員に当選した直後から、仙台市によるナノテラスの利活用について、東北大学をはじめ様々な関係者から心配の声を多数いただきました。
それは、仙台市が本当にナノテラスをきちんと利活用できるのだろうか、という懸念です。放射光に馴染みの薄い地場の中小企業が最先端の専門的な大型計測施設を使いこなすには、放射光測定からデータ分析までの過程はもちろんのこと、放射光で測定する以前の段階のテーマ探索からしてハードルが高く、さらに放射光分析後の産業化まで見据えた、専門家による継続的な支援体制が必要ではないかという点が、ひとつ目の大きな点です。また、そもそも論として、放射光の利用コストがビジネスの採算ラインに合うほどの地場企業が実際どれくらいいるのかといった懸念の声も聞かれました。さらには、折角このような世界最高レベルのリサーチコンプレックスが、ここ仙台市に形成され、その波及効果は学術界や産業界のみならず、まちづくりや教育、国際交流等々、地域社会にとって計り知れないポテンシャルがあるにも関わらず、ナノテラスを総合的に最大限活用するための仙台市としてのイニシアチブや具体的なビジョンが、外からは見えず、また大変残念なことに、市民からの認知度もかなり低いとの声も多数聞かれました。
そこで私は議員就任直後から、この実情把握のために、仙台市の経済局やまちづくり政策局、教育局、科学館などの関係部局や、東北大学や東北経済連合会等、他の地域パートナーに対してヒアリングを進めて参りました。率直な印象といたしましては、仙台市の各部局は、それぞれの立場でやれることはやっており、また、部局間での情報共有はなされているとの印象は受けております。しかしながら一方で、他の地域パートナー等からの率直な意見として、ナノテラスを最大限活用し、研究、産業、教育が循環するエコシステムを形成していくための総合的な議論を具体的に進めていきたいものの、仙台市としてのイニシアチブや明示的な総合窓口が見えないために、先ほど申し上げたような懸念の声が、私の方にも届いているものと現状を認識しております。
繰り返しになりますが、そもそもナノテラスは経済のみならず、まちづくりや教育、国際交流等々、幅広い分野に波及する事業であります。したがいまして、仙台市としてナノテラスを最大限活用するために総合的な議論ができる体制づくりと、その推進のために責任をもって分野横断的に取り組める「司令塔」のようなポジションを、市長直下でつくるべきではないかと考えます。それくらい、ナノテラスは仙台市にとって大きな恩恵をもたらすものではないでしょうか。
もちろん、次年度から運用開始というタイミングで、限られたリソースの中、現在は経済局を中心に地場企業への参画の働きかけが最重要課題であることは重々理解しております。しかし、このまま仙台市としてトータルにナノテラスを最大限活用し、研究、産業、教育が循環するエコシステムを形成していくための総合的なビジョンが見えない体制のままでは、仙台市にとって、ナノテラスが「宝の持ち腐れ」になってしまうのではないかと、強く懸念をしております。仙台市は地域パートナー5団体のうちの1団体ではありますが、むしろ、仙台市が積極的にイニシアチブをとり、他の地域パートナー4団体を主導して束ねていくくらいの気概を内外に対して示すことこそが、仙台市にとって最大の価値を生むものと考えます。
郡市長におかれましては、本年5月に開催されたG7仙台科学技術大臣会合において、「科学技術を生かしたまちづくり」をアピールされたことは承知しております。そのご発言を踏まえ、ナノテラスを核としたリサーチコンプレックス形成について、仙台市が受け身ではなく、積極的にイニシアチブを取るためにも、そのような司令塔のポジションをぜひ設けるべきと考えますが、郡市長のご認識を伺えますでしょうか。併せて、具体ではありますが、現在、ナノテラスへの取組を主に進めている経済局及び教育局からも、各局の取組状況について伺いたいと思います。
私も、次世代放射光施設の計画段階から、一部ではありますが、携わってきた経緯もあり、実務も含めて役目を全うしていきたいと考えております。以上で、私の一般質問といたします。ご清聴いただきありがとうございました。
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