令和6年第3回定例会 決算等審査特別委員会 9月25日
第2分科会(教育局)
心豊かな社会をつくる会 大草よしえ
「確かな学力の育成」について
私からは「教育に関する事務の管理及び執行の状況の点検及び評価の結果報告書(令和5年度実績)」のうち、「確かな学力の育成」について伺います。
(1)「仙台市標準学力調査、生活・学習状況調査」について
① 目的と費用対効果について
はじめに、「仙台市標準学力調査、生活・学習状況調査」について伺います。いわゆる「全国学力テスト」と呼ばれる「全国学力・学習状況調査」は、文部科学省が全国的に子どもたちの学力状況を把握するために、全国の小学6年生と中学3年生を対象に2007年からほぼ毎年実施している大規模調査です。この全国の学力テストに加えて、本市ではさらに独自に、小学3年生から中学3年生を対象とした「標準学力検査」と、小学2年生から中学3年生までを対象とした「生活・学習状況調査」を、決算年度でも約8,000万円の予算をかけて、全国学力テストと並行して2007年から独自に毎年実施しています。
全国の学力テストといえば、つい先週末の9月21日のニュース記事で、全国知事会長の村井嘉浩宮城県知事が時事通信社のインタビューに応じ、全国学力テストを「何年かに一回やるのはいいが、毎年やってもあまり効果は見込めない」「現場での負担だけが大きくなる」といった知事会での意見も紹介した上で、全国学力テストの見直しを知事会で提案する考えを述べたと報道されたところです。
このように近年、全国学力テストそのものの見直しの議論が全国的に広まっている中、その全国学力テストとは別に、さらに本市が敢えて毎年約8000万円もの予算をかけて独自に「仙台市の標準学力調査、生活・学習状況調査」まで実施している理由(全国学力テストとの違い)と、決算年度における取り組みの成果について、お示しください。
答弁 Answer
教育局 学びの連携推進室長
本市独自の検査の目的は、3つございます。1点目として、児童生徒の一人ひとりの学力の定着状況を的確に把握し、指導に生かすとともに、個に応じたきめ細やかな指導の充実を図ること。2点目として、各学校において、学力向上に関する教育の成果と課題を分析し、学習指導の工夫・改善を図ること。3点目としては全市的な規模で的確に把握・分析することによって、学力向上に関する教育施策の成果と課題を検証し、より効果的改善を図ることでございます。
全国調査は、小学校6年生と中学校3年生を対象に原則2教科であるのに対し、本市独自の検査は、小学校3年生が2教科、小学校4年生から6年生が4教科、中学校1年生から3年生が5教科となっており、全国調査と比較して、より幅広く、継続的に、一人一人の学力をきめ細かく把握することができるものとなっております。決算年度におきましても、本市独自検査の結果から児童生徒が苦手とする課題を把握し、宮城教育大学と連携して授業の改善事例を提案する研修会を開催し、教員の授業力向上に活かしたところです。
② 調査目的の共有について
子どもたちの現状を客観的に把握し、その実態に応じて本市の施策や指導の改善をタイムリーに実施する上で、定量的なデータを全市的かつ継続的に取得していく取り組みは極めて重要であると考えています。ただし、たとえデータ自体は取れたとしても、その目的や意図を学校現場の先生方と共有できていなければ、データが学校現場で活用されないまま終わってしまい、この予算や負担といったコストに見合うだけの成果は得られないものと考えます。なぜ本市でわざわざ独自に学力調査を実施しているのか、その目的や意義については、学校現場の先生方ときちんと共有されていますか?
答弁 Answer
教育局 学びの連携推進室長
先ほど答弁いたしました目的につきましては、研修会等で、各校の管理職や学力向上担当の教員に周知しており、各校の理解は図られていると認識しているところでございます。
また、検査結果を活用した「授業力レベルアップ研修」は、オンラインでの配信とオンデマンドを併用することにより、年々参加者が増えており、教員から「分析の視点を自分たちの学校でも生かしたい」「示された具体的な授業改善のポイントを学校でも試してみたい」「毎年参考にしている」などといった声も寄せられているなど、検査結果の活用を実感していると感じているところです。
今年度の分析結果につきましても、広く共有し、実施の趣旨理解と教員の指導力向上につなげてまいりたいと考えております。
(2)「学習意欲」の現状分析と改善方策について
次に、本市独自の生活・学習状況調査の調査項目のうち、「学習意欲」について伺います。一口に学習意欲と言っても、その意欲が外発的な動機付けによるものか、それとも、内発的な動機付けによるものかで、同じ学習意欲でも全くの別物であると考えます。一般的に言われていることですが、外発的な動機付けを、外から与えられなくなった瞬間、人は学べなくなります。確かな学力、つまり、自ら学び続ける力は、外発的な動機付けによる勉強ではなく、内発的な動機付けによる探求の積み重ねによって育まれていくものです。しかしながら近年のPISAなどの国際比較調査においても、日本の子どもたちは諸外国と比べて学力的には相対的に高い傾向にありながら、自ら学ぶ意欲や自律的に学習する自信については、未だかなり低い状況にあることが問題視されています。
① 「学習意欲」の指標と分析結果について
そこで伺いますが、本市独自調査の項目のうち「学習意欲」については、どのような指標でもって調査を行っているのでしょうか?その指標は、内発的動機付けか、外発的動機付けかを区別できるような指標でしょうか?さらに本市の「学習意欲」の分析結果について、決算年度も含めた近年の傾向と、分析結果を踏まえた方策について、お示しください。
答弁 Answer
教育局 学びの連携推進室長
「学習意欲」に関する調査指標は、「自分の夢をかなえるために、たくさん勉強する」「なぜだろう?と疑問や不思議に感じることがよくある」「自分が世の中の役に立てるように、勉強をがんばる」など、内発的動機付けの項目を多く設定することによって行っております。近年の傾向としては、小学校低学年は肯定的に回答している割合が高いものの、中学生に向けて低下傾向が見られ、再び中学3年生にかけて、上向きに変化する項目が多く見られます。
本市では、東北大学と連携し、学習意欲に関する調査結果の分析を行っており、「将来の夢をかなえたいという強い気持ちを持って勉強することで、学習に良い影響がある」ことや、「家庭でのコミュニケーション」と「自己肯定感」などの要素が関係しあっていることが見えてきております。
こうした分析結果については、リーフレット等を作成し、学習意欲を高めるような生活習慣の改善について、学校及び家庭へ周知を行っているところでございます。
② 内発的動機に基づく学びと地域の多様な主体との連携について
天野教育長も教育長就任当時から、「外部の評価や報酬を求めるのではなく、自分で学びたいという内発的動機に基づく学びこそ、確かな学力につながる」と強調されていました。そしてそのためには、「職場体験や起業体験に力を入れたい」「地域の企業や団体にはこれまで以上の協力をもらいたい」とも仰っていました。その想いを改めてお聞かせいただけますでしょうか?
答弁 Answer
教育長
仙台市では平成18年から「仙台自分づくり教育」に取り組んでいるところです。これは児童・生徒の将来の社会的・職業的な自立に必要な能力や態度である、たくましく生きる力の育成をしてきたところです。その成果の一つとして、この15年間で「自分にはよいところがある」という設問に対し、肯定的に回答した割合が、中学校3年生で15年間で20%ポイント以上増加しているところでございます。
この複雑な、そして予測困難な社会にありまして、子どもたちが様々な変化を前向きに捉えて、自ら未来を切り拓いていく力が求められていると思いますが、そのためにも、職場体験、起業体験をやっている「自分づくり教育」に力を入れまして、児童・生徒が様々な大人、格好良い大人も格好悪い大人も含めて、様々な大人に触れて、自分の居場所を見つけることが非常に重要だと思います。
自ら学びたいという意欲、内発的動機付けは、外発的動機に比べて、将来にわたって内発的動機付けが続き、長い学びに結びつくとも言われています。そうした内発的動機付けを軸にした「たくましく生きる力」を育むことで、これが「確かな学力」につながっていくことを目指していきたいと思います。
このような考えのもと、地域との関係づくりをやはり強化するということで、企業・団体の皆さまからも協力いただきながら、豊かな学びの機会を創出していきたいと考えております。
(3)地域連携に関する課題と改善要望
天野教育長も仰るとおり、内発的な動機付けは、内発的なモチベーションで生きている人と人とが出会い共鳴することでどんどん大きくなっていくものですので、日々の授業や家庭生活をベースとしつつ、学ぶ楽しさや意味を実感し・実践している多様な大人の方々と、子どもたちが自分の興味に応じて出会える場の創出は極めて重要であると、私も考えております。そのためには、学校の外の地域の多様な主体からの協力が不可欠です。
① 地域の多様な主体との連携・協力の現状について
本市においても、「自分づくり教育」をはじめ、地域の多様な主体と連携し様々な事業を行っていると認識しております。本市の教育に協力している地域の方々や団体数は、様々な事業で合計して大凡どの程度になりますか?
答弁 Answer
教育局 学びの連携推進室長
決算年度では、学校支援地域本部が関わり、ご協力いただいた学校支援ボランティアは、延べ11万2,426人であり、大学や企業等の方が講師となる理科特別授業に関しては、延べ89の団体・企業からご協力いただいたところでございます。また、職場体験活動にご協力いただいた企業は2,378社、自分づくり夢教室、職業講話に関わっていただいた講師は延べ154名、子ども体験プラザでご協力いただいたボランティアは延べ2,510名でございました。多くの皆様に学校教育に関わっていただき、子どもたちにとって豊かな学びの環境づくりに繋がったものと考えております。
② 地域連携の阻害要因となる事例についての原因分析
それほど多くの方々が本市の教育に関わっていることは本市にとって素晴らしい財産であり、地域の力を借りた学びの連携を今後も益々推進していただきたいと願っております。しかしながらその一方で、その地域との連携の阻害要因となる事例が相談として寄せられましたので、改善を求める意図で最後に取りあげたいと思います。それは「理科特別授業」の社会人講師を務める方からいただいた声です。
理科特別授業とは、企業や大学、個人などの社会人講師が、学校の求めに応じて、小学生向けに理科の出前授業を行うものです。もともとは経済産業省の委託事業として本市では2007年にスタートし、事業終了後はボランティアベースで現在も継続されているものです。私も本事業の立ち上げ時、企業連携のコーディネートを少しお手伝いした経緯もあり、現在の社会人講師リストを17年ぶりに拝見したところ、当時の協力団体の多くがその後も長きにわたり子どもたちの学びのために協力してくださっていることを知り、「子どもたちのために」との熱い思いに深い感銘を覚えたところです。
ところが最近、理科特別授業の社会人講師を務める、あるボランティアの方から相談の声をいただきました。全員が全員ではなくあくまで一部の先生ということですが、一部の先生からメールのレスポンスが遅すぎるために、出前授業の準備が進められないとの悩みです。民間の感覚ではメールは24時間以内、遅くとも2営業日以内に返信というのが、ビジネスマナーの常識ですが、「1週間待っても2週間待っても、先生から返事が来ない。このままでは学校側から提示された授業スケジュールに間に合わなくなる。けれども先生方も多忙なことは知っているので催促の電話をするのも気がひけてしまう。その結果、なかなか準備を進められずに大変悩んでいる、どうにかならないか」とのご相談でした。さらにその悩みを、その社会人講師の方は、他の協力企業の方にも話したそうですが、他の企業の方も同様の悩みがあったとのことで、「待てども待てども、担当の先生から返事が来ない。仕方なく催促の電話をしたところ、『準備が間に合わないから、今すぐに来てくれ』と、仕事中にも関わらず遠方の学校から急に呼び出された」事例もあったとのことでした。
もちろん問題なくやり取りできている学校の方が多く、あくまで一部の学校とのことではありますが、そもそも学校側が要請して協力を仰いでいる以上、あってはならないことだと思います。社会人講師の皆さんは、学校の先生方が多忙であることはご存知ですので、先生の多忙感を煽るようなことだけはしたくないとの願いでした。ただ、我慢している不満も積もり積もることで、本来の目的である「子どもたちの学びのために」という、せっかくの尊いモチベーションが、たかがビジネスマナーレベルで萎えてしまうのは非常に問題だと思います。そのようなレベルでの損失は、地域との学びの連携を今後ますます推進していこうという本市としては、絶対に避けなければならないことではないでしょうか。
このような問題が起こる原因について、当局ではどのように分析されますでしょうか?
答弁 Answer
教育局 教育センター所長
教員は日常的に外部の方とメールで連絡をとる機会は多くはなく、また日中は授業を行っている時間が大半であり、どうしても返信にはタイムラグが生じてしまう面もあるものと考えます。今般の件は、担当教員に連絡を任せたままであったものと考えられ、学校としての組織的な対応に課題があったものと認識しております。
③ 「チーム学校」での組織対応の徹底を
当局からご答弁を伺う前は、「教員に求められる資質・能力」として社会人のビジネスマナーが必要ではないか、との仮説を持っておりましたが、今回ご答弁を伺い、教員個人が地域の方と直接メールでやり取りする機会が、現時点では稀なケースであることがわかりました。社会通念上のビジネスマナーは、研修の機会などを捉えて最低限のところは習得いただきたいところですが、現場があまり必然性を感じていないところで、必要以上に外から求め過ぎてしまうと、かえって教育現場の多忙感を増幅させてしまうリスクもありますし、そもそも今回の問題は、教員個人に対応を求めた結果、対応がバラバラになっていることが問題の本質だと思いますので、現実的な対応策としては、地域との連携は教員個人での対応とするのではなく、他の事業でも既に実践されているように、管理職が窓口となった「チーム学校」での組織対応、あるいはコーディネーターが間に入っての組織対応など、個人対応ではなく組織対応をぜひとも徹底いただきたいと考えますが、今後の対応策について伺います。
答弁 Answer
教育局 教育センター所長
理科特別授業に限らず、児童生徒の学習や体験の機会を充実し、学校の教育力を高めるために、地域の皆様をはじめとした外部の方々のお力をお借りしているということを、一人ひとりの教員が改めて認識し、感謝の気持ちを持って接することが基本であり、重要であると考えるところです。関係者のご意見にも耳を傾け、これまでの取組を振り返りながら、地域との円滑な連携にあたっての、学校としての組織的な対応に取り組んでまいりたいと存じます。
今回いただいた声は、「子どもたちのために自分ができることをぜひやってあげたい」という想いから来るものです。このような尊い内発的なモチベーションは、お願いしたからと言って得られるとは限らない、貴重な財産であると、改めて感じました。せっかくの尊い内発的な動機付けがきちんと教育的価値として還元される体制を、本市としてしっかり整えていただくことをお願いして、私からの質問を終わらせていただきます。
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