「東北大学サイエンスパークのこれまでとこれから」
【日時】2024年1月26日(金)15:00~17:00
【会場】東北大学本部
【主催】一般財団法人みやぎ産業科学振興基金(伊藤弘昌理事長)
【次第】
第1部 話題提供
1.「サイエンスパーク設置のあゆみ」伊藤弘昌(みやぎ産業科学振興基金理事長)
2.「動き始めたサイエンスパーク」青木孝文(東北大学理事・副学長/プロボスト/CDO)
3.「地域における動きと期待〜知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて〜」
大草芳江(仙台市議会議員、NPO法人 natural science理事)
4.「理研からの期待」 南出泰亜(理化学研究所 テラヘルツ光研究領域・領域)
第2部 ディスカッション
意見交換会では、はじめに伊藤理事長が「サイエンスパーク設置のあゆみ」と題し、これまで語られなかったという東北大学サイエンスパーク設置の経緯を詳細に語りました。総長就任当初から青葉山新キャンパス構想を表明していた西澤潤一総長とのやり取りは1995年1月から始まり、移転対象部局として既に検討を進めていた電気通信研究所は1995年4月段階で移転案を提出。その後、1998年から5年間にわたり大村虔一教授(当時、東北大学建築学科)らとともに、青葉山新キャンパス実現の日に備えて、世界トップのキャンパスを持つ大学のためのグランドデザインから地域との関係などを語り合う会を毎月開催し、新キャンパスの建設のみならず社会デザインも含めて検討を進めてきたことや、ケンブリッジ・サイエンスパークへの視察結果等が、青葉山新キャンパス構想の基盤になった経緯が語られました。
次に、東北大学のプロボストとして経営改革の中核を担う青木孝文理事・副学長が「動き始めたサイエンスパーク」と題して、ナノテラスを核としたリサーチコンプレックスの整備状況等を報告しました。ナノテラスの特徴は地下鉄でアクセスできる利便性の良さで、ほぼ100%国産技術が用いられており、ビームライン10本のうち7本が民間活用されること、ナノテラスに近接する4万㎡のゾーンにサイエンスパークを設け民間企業等が入居可能な研究棟を建設中であり企業からのニーズも高いことなどが紹介されました。一方、特定放射光施設の整備・運営の半分程度を地域が民間資金を受けながら担っていく方式は世界でも珍しいため、色々と今までに無い苦労も多い反面、世界からの注目度は高く、また企業にとっては繰延資産となるため東北大学との連携の求心力になる面も語られました。さらに、ナノテラスで生み出されたデータがキーとなる点が強調され、「見た」だけでは終わらせない研究開発DX実現にむけた取組状況等が報告されました。
続けて、大草よしえが「地域における動きと期待〜知的好奇心がもたらす心豊かな社会の創造にむけて〜」と題し、2005年東北大学大学院在学中に科学教育を志して起業した目的や民間の立場からの活動状況、さらに被選挙権を行使して問題提起を行うに至った経緯や、議員としての活動報告を行いました。議会での初質問は、当選以来、仙台市の直近の課題として多くの声を頂いたナノテラスの利活用について一般質問を行ったこと(https://www.yoshie-ohkusa.info/20230921.html)。その反響を踏まえ、「ナノテラスを契機に連携による各機関ミッション効果最大化を図るための意見交換会」を多様な主体を交えて主催したこと(https://www.yoshie-ohkusa.info/20231129-1.html)。その議論を踏まえ、2回目の議会で「過去事業で得られた国内外の研究機関等との関係性は今からつくろうと思ってもつくれない本市の財産であるため、総合計画の目標『世界に発信できる東北発のイノベーション』の実現にむけて、『仙台・宮城の科学・技術ポートフォリオ』と積極的に位置付け、多様な産学が集い異分野融合を促すイノベーション・エコシステム創出の戦略策定に活かすべき」との提言を行ったこと(https://www.yoshie-ohkusa.info/20231215.html)。その提言を受け、仙台市として経済局長が早速動き、仙台市からの依頼を受けて大草よしえが理研やフラウンホーファー研究機構と仙台市との繋ぎ役を務めたこと(https://www.yoshie-ohkusa.info/20240122.html)等を報告しました。
続いて、理化学研究所の南出泰亜・テラヘルツ光研究領域・領域が「理研からの期待」と題し連携への期待を語りました。まずは仙台に理研の拠点が設置された経緯について、地域展開の第一弾として東北大学の名前があがり西澤潤一教授が推薦され、西澤教授が「フォトダイナミクス研究センター」と命名し理研仙台が1990年に発足、光の研究を続け、現在はテラヘルツ研究を中心に成果を挙げていることが紹介されました。テラヘルツとは、光と電波の間の周波数の電磁波で、非破壊で中身を透視して見ることができ、かつ様々な物質がテラヘルツ領域で特徴的な吸収スペクトルを示すため物質同定に活用できる特徴を有することから、非破壊検査や医療、超高速無線技術などへの応用が期待されています。世界的にもテラヘルツ研究は日本がリードしており、その研究拠点が仙台にある意義が語られました。また、ナノテラスが世界トップ輝度を誇る軟X線の発生装置であるのに対して、計測は常にマルチモーダルである点を南出領域長は強調しており、ナノテラスがカバーしない赤外線やテラヘルツ波など、東北大学では最先端のレーザー研究者が少ない領域を理研仙台がカバーできると語りました。さらに、開かれた研究コミュニティ、学術を超えた交流と連携など、ナノテラスに留まらない広がりを持ったサイエンスコミュニティへの期待が語られました。
最後に、江刺正喜理事(東北大学名誉教授)が、西澤潤一先生がお亡くなりになる前年の2017年、東北大学サイエンスパークを案内された様子を写真で報告してくださいました。西澤先生は、青葉山新キャンパスや建設が進むサイエンスパークを直にご覧になってご夫婦で喜んでいらっしゃったそうです。ちなみに西澤潤一先生には、大草よしえも研究室やご自宅に何度も伺わせていただきインタビュー取材にご協力いただいた上、私どもNPO法人 natural science主催の一般向け科学イベント『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ』にもご講演や応援メッセージをいただくなど、多大なるご理解とお力添えをいただきました(関連記事参照)。今回のテーマである東北大学サイエンスパークや理研仙台の設置についても西澤潤一先生の構想力や影響力が大きく寄与していることを改めて知る機会となりましたので、最後に西澤先生の写真の前で記念撮影をさせていただきました。
第2部のディスカッションでは、国際卓越研究大学の認定等に関する審査状況や仙台市の姿勢、東北大学と理研との連携に関する戦略など1時間ほど議論した後、会場を移しての二次会も含めてざっくばらんな議論が行われました。ここでしか聞くことはできないと思われる貴重なお話ばかり伺えて大変勉強になりました。このような貴重な場にNPO法人natural science の遠藤理平代表理事も含めてお招きいただきましたこと、主催いただいたみやぎ産業科学振興基金の伊藤理事長、江刺理事、南出理事、大変お忙しい中ご一緒いただきました青木理事・副学長に心より感謝申し上げます。
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